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名古屋高等裁判所 昭和41年(う)586号 判決 1967年3月13日

主文

本件控訴を棄却する。

破棄差戻し後の当審における未決勾留日数中一二〇日を本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人戸田喬康及び被告人本人各名義の控訴趣意書に記載するとおりであるから、いずれも、これを引用する。

一、弁護人の論旨第一点及び被告人の論旨中控訴理由6について。

弁護人の所論の要旨は、被告人は、本件につき、昭和四〇年二月一八日名古屋地方裁判所において「被告人を懲役六年及び罰金五〇万円に処す。(中略)未決勾留日数中一八〇日を本刑に算入する。」との判決を受け、これを不服として控訴し、同年一二月二三日名古屋高等裁判所において、「原判決を破棄し、名古屋地方裁判所に差し戻す」旨の判決を受けたのであるが、差戻し後の原判決は、懲役刑を五年に、罰金刑を四〇万円に各減じた反面、新たに拳銃の没収と追徴を附加し、更に、差戻し前の一審判決がなした未決勾留日数の通算を全部削除したので、これは明らかに刑訴法四〇二条に規定する不利益変更禁止の原則に違反するものである、というのであり、また、被告人の所論も、右追徴の言渡しは違法であって、許されないものであるというのである。

各所論にかんがみ、本件記録を調査するに、被告人は、本件関税法違反被告事件につき、昭和四〇年二月一八日名古屋地方裁判所において、「被告人を懲役六年及び罰金五〇万円に処する。右罰金を完納しない場合は金一、〇〇〇円を一日に換算した期間労役場に留置する。訴訟費用は被告人の負担とする。未決勾留日数中一八〇日を右本刑に算入する。」との判決を受け、被告人において控訴の申立をした結果、同年一二月二三日名古屋高等裁判所において、「原判決を破棄する。本件を名古屋地方裁判所に差戻す」との判決がなされ、これに基いて、昭和四一年九月一二日名古屋地方裁判所において、「被告人を懲役五年及び罰金四〇万円に処する。右罰金を完納できないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」との判決に附加して、関税法一一八条一項二項により、犯罪貨物である拳銃一六丁の没収と没収不能の拳銃三丁の価格六八、七九〇円の追徴を言い渡したことが明白である。

さて、本件のように、被告人が控訴した事件につき、控訴審において原判決が破棄され、差戻しとなった場合、差戻し前の原判決(以下第一次原判決という。)と差戻し後の原判決(以下第二次原判決という。)との間には、刑訴法四〇二条のいわゆる不利益変更禁止の規定が適用され、従って、第二次原判決は第一次原判決より被告人にとって不利益となる重い刑を言い渡すことができないことは、弁護人の所論が指摘するとおりである。しかして、不利益変更禁止の規定に違反するか否かは、両判決の主文に掲記されたところを比較し、全体を具体的かつ実質的に綜合観察して判断すべきものというべきである。

そこで、本件につき考察するに、前記のとおり、第二次原判決は、第一次原判決より懲役刑を一年短縮し、罰金刑を一〇万円減額した反面、没収、追徴を附加し、なお、第一次原判決において言い渡された未決勾留日数一八〇日の通算を削除したのであるが、以上本件において、被告人の利益に変更された部面と不利益に変更されたそれとを、全体として具体的かつ実質的に観察すれば、未だ第二次原判決は第一次原判決の言い渡した刑を被告人にとって不利益に変更したものとは、いえないのである。また、第二次原判決が、所在不明と説示する拳銃三丁は、元来本件において没収すべき物件であることは、記録上明白であるから、これにつきその価格を被告人から追徴すべきものとした第二次原判決には、何ら違法のかどはない。各論旨は理由がない。

二、弁護人の論旨第二点について。

所論は要するに、第一次原判決は、未決勾留日数中一八〇日を本件に算入したのに、第二次原判決は、これを判決主文から削除し、被告人が勾留状の執行を受けて後第一次原判決がなされるまでの約八ヶ月に亘る未決勾留日数につき、何らの考慮も払わない。これは刑法二一条の解釈適用を誤った場合であるか若しくは訴訟手続に法令違反がある場合に該当する、というのである。

しかしながら、未決勾留日数の通算は、裁判所が自由裁量に基き、事件審理の状況を勘案して、その要否及び通算する場合の日数を算定すべきものであるから、第二次原判決が、所論のいうように未決勾留日数の通算をしなかったからといって、直ちに法令適用の誤りを犯したとすることはできない。本件は規模の大きい犯行であり、関係者が多数介在し、そのため第一次原判決までの審理にも比較的長期間を要したことが認められるので、このような事情を考慮すると、第二次原判決が、第一次原判決までの未決勾留日数につき、本刑への算入をしなかったといって、強ち不相当な措置とはいえないのである。論旨は理由がない。

三、弁護人の論旨第三点及び被告人の論旨中量刑不当の主張について。

各所論の要旨は、第二次原判決の量刑は、重きに過ぎ不当である、というのである。

所論に徴し、第二次原判決の量刑の当否を考察するに、証拠によって認め得るとおり、本件は、首謀者と目される被告人が、多くの共犯者と昭和三七年五月頃から同三九年四月頃までの間に、三七丁におよぶ拳銃を密輸入して、多額の利益を収め、日本の社会に相当の衝撃を与えた事案であること、更に被告人の経歴、年令その他量刑に関連する諸般の事情を考え併せると、原判決の量刑は相当というべく、各所論のいう被告人の家庭状況など被告人の利益と目される情状を斟酌しても、右量刑が重きに失するとは認められない。各論旨は採用できない。

四、以上のほか、被告人の控訴趣意書には、法令適用の誤り、或いは事実誤認その他第二次原判決に違法、不当のかどがあると主張するかの如き記載があるが、本件記録を仔細に検討するも、第二次原判決には、少しも法令の適用を誤ったり、事実を誤認したこと、その他の欠陥は、これを見出すことができない。論旨は失当である。

よって、刑訴法三九六条に則り、本件控訴を棄却すべく、主文掲記の未決勾留日数の通算につき、刑法二一条を、破棄差戻し後の当審における訴訟費用負担の免除につき、刑訴法一八一条一項但書を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 赤間鎮雄 裁判官 小淵連 村上悦雄)

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